黒い夏
ジャック・ケッチャム, 金子 浩
ジャック・ケッチャム『黒い夏』読了。暗闇に延々とつばを吐き続けているかのような読後感。
中盤から終盤にかけて物語が一気に加速する様は、物語の重要人物レイ・パイがドラッグをキメつつ、過激な行動に走っていく様子と同様、実はケッチャム自身もドラッグをキメ、夢心地になりながら、この残酷物語を書き綴ってんじゃねえの!?と思わせるほどのイカれた疾走感を維持し続けていた。僕はジャック・ケッチャム作品、邦訳されているものは全作読んでいるのだが、しかしなんなんだろうか・・・彼の全作品すべてに底流する、この不穏な空気と独特な匂いは?
もし、過って食べてしまったら死に至ってしまうもの(例えば毒キノコとか?)の匂いのような・・・。(えてして、毒のある生き物や生物は獲物をおびきよせるために、獲物の気に入るような匂いを発したりするもの。)そんな、生命の存在さえ揺さぶるような、ひどく危険な匂いが彼の小説にはある。
僕はそんな甘い(危険な)匂いを感じるからこそ、陰惨な描写が延々続く中でもひたすらページを捲ることが止められないのかもしれない。
しかし、ジャック・ケッチャムの小説は甘い匂いを楽しむ程度で、けっして咀嚼してはいけない。彼の描く救いようのない物語の唯一の救いは、フィクションであるという事実ひとつだけでしかない。(ケッチャム作品は実際に起こった事件をもとに書いている小説がほとんどだったりするのだが・・・現実とは真に恐ろしい・・・。)
もしも、彼の小説にのめり込みすぎ、現実とフィクションの境界が朧げになりつつあるのなら、今すぐ本を捨て、その存在を忘れてしまったほうがいい。もし、それができなければ、そこにあるのはジャック・ケッチャムの描くような凄惨な死姿であることは間違いないだろう。
★ちなみに『黒い夏』のカバーフォトはmatthew hollerbushってひとの作品
matthew hollerbushのHP↓
http://www.hollerbush.com/
僕はジャック・ケッチャム(扶桑社ミステリー文庫)シリーズの装丁に使われている写真がどれも好き。(全作品違う人が撮っているのだが、ジャック・ケッチャムシリーズとして統一感があってカッコよいなあ!)