マーク=ロスコ、旧名、マーカス=ロスコヴィッツ
親戚を頼りにアメリカへ移住していた父ジェイコブの後を追って、ロシアからアメリカに移住して来た移民の子。どんな気持ちだったのだろう?十歳で故郷を捨て、新しい国の土を初めて踏んだ少年、ロスコの思いは?その後、抽象画家として遅咲きとはいえ世界的な成功を収め、六十六才で自ら命を断ったロスコ。初めてアメリカに降り立った時には、希望と不安で心がいっぱいで、自ら命を断つことなど思いもしなかったろう。どんな思いを胸に携えて、彼はこの世を後にしたのか・・・。芸術が狂気に走らせたのか?
狂気が芸術を蝕んでしまったのか?
兵庫県立美術館に飾られたロスコの作品、
『ナンバー4(無題)』
淡い黄色の矩形を、薄い白色の帯が囲む上部。オレンジ色の長方形の下、艶のない黒がカンバスの下部を引き締める。269.24x129.22cmの巨大なカンバスに、黄、オレンジ、黒、オレンジが時に解け合うかのように、時に反発するかのように存在している。
制作年は1953年。彼は1970年に死んでいるから、『ナンバー4(無題)』は、その十七年前に描かれたものだ。年令でいうと、五十歳。四十六歳の頃に、彼はやっと自分のスタイルを確立する。この作品のような巨大なカンバスに、二つから三つのぼんやりとした矩形を描いた有名なスタイル。それから四年後の作品だから、一番油の乗っていた時期の作品だと言える。きっと彼もこの時が芸術家として一番幸福だったんじゃないだろうか。静寂と瞑想。ロスコ作品の前では、誰もが哲学者になりえる。自らが世界の何処かに存在していることを、朧げに指し示してくれるロスコの色彩。ロスコの死後も、時間を超えてそれはカンバスと、それを包み込む会場の空気に存在している。芸術家は死してもなお、自らの思いを、願いを、思索を、後世に残す。カンバスに記された朧げな色の痕跡によって。
☆『アメリカ-ホイットニー美術館コレクションに見るアメリカの素顔』展会場入り口↓
先週、兵庫県立美術館に、『アメリカーホイットニ-美術館コレクションに見るアメリカの素顔』展を見てまいりました。つまらなく、怠惰で、どこかぬるま湯のようだった高校生時代に初めて知ったアメリカの現代美術。その頃に衝撃を受けたロバート・ラウシェンバーグにジャスパー・ジョーンズ。(彼らのアートには、その当時の僕には計り得ない、とてつもない自由さがあり、その時から僕は現代アートの虜になりました。)
マーク・ロスコにジャクソン・ポロック、
アンディ・ウォーホルにジャン=ミシェル・バスキア、
ジョージア・オキーフにエドワード・ホッパー、
デヴィッド・サーレにジュリアン・シュナーベルの作品etc…
とアメリカの抽象表現主義から、新表現主義へと移り行く、アメリカ現代美術の歴史を総括したかのようなコレクション展は実に興味深かったです。
個人的には、以下の4作品が心にグッときました。
◎1.ロスコの平面作品『ナンバー4(無題)』
◎2.バーネット・ニューマンの立体作品『ヒア3』
抽象画家であったバーネット・ニューマンが立体作品を制作していたとは驚きでした。台形の台座の上に載ったステンレス製の垂直の柱。高さは約3mあります。
オベリスクのような、
無機質な墓標のような、たたずまいは圧倒的な存在感!
◎3.ジュリアン・シュナーベル(映画『バスキア』の監督でもあります。ちなみに映画『バスキア』で、バスキア作品として登場する絵の数々はシュナーベルが描いたものです。)の平面作品『無題』
巨大なカンバス247.5x201.3cmに布に浸した樹脂を投げつけ定着させて制作した抽象画で、感覚的な構成力が見事!
☆そうそう、レッチリの『BY THE WAY』のジャケットもシュナーベル作品であります。↓
BY THE WAY
レッド・ホット・チリ・ペッパーズ
◎4.ジョエル・シャピロのブロンズ立体作品『無題(平原の家)』
53.0x73.3cmの銅の板の上に、小さな銅でできた家が置かれた作品。絶妙な大きさ、漂う静謐感。どことなく物語性を感じさせる作品性がグッド!!
その他、映画『サーチ&デストロイ』↓を
サーチ&デストロイ
撮ったデヴィッド・サーレの平面作品
『田舎町のセクスタント(六分儀)』、
写真家であるジャック・ピアソンの珍しい立体作品『欲望、絶望』なども展示されていて、個人的にはかなりストライクッ!!な展覧会でありました。
☆『アメリカ-ホイットニー美術館コレクションに見るアメリカの素顔』展
■会場:兵庫県立美術館→
http://www.artm.pref.hyogo.jp/home1.html
■展覧会期:2006年4月4日(火)〜5月14日(日)
■開館時間:午前10時〜午後6時(金・土曜日は午後8時まで)
入場は閉館の30分前まで
■休館日:月曜日
■観覧料:一般 1,200円
大・高生 900円
中・小生 500円
マーク・ロスコ―1903-1970
ヤコブ・バール=テシューヴァ, Toshio Miyamoto
Julian Schnabel: Malerei / Paintings 1978-2003 (HATJE CANTZ)
Julian Schnabel
Jack Pierson Desire/despair: A Retrospective: Selected Works 1985-2005
Richard D. Marshall