THE CREMASTER CYCLE
Matthew Barney, Nancy Spector
マシュー・バーニー『拘束のドローイング』展ついに見てまいりましたin金沢21世紀美術館!
まず、映画(というより映像作品。)『拘束のドローイング9』を見てから『拘束のドローイング』の美術館展示。んで、7月2日に金沢21世紀美術館内でおこなわれたマシュー・バーニー/アーティスト・トークのビデオ録画映像の順番で見ました。(展覧会未見の方はこの順番で見ることをオススメします。この順番で見るとマシュー・バーニーの頭ン中が少し?わかった気になれます。・・・まあ、理解した気になるだけですが。)
では、わたくしの感想いってみましょう。
まず映画、これは・・・『和モノコスプレ、マシューくん、ビョークちゃんのトンデモ捕鯨船社会見学!!ついでにお茶会やって、勢いあまって変身しちゃいました。私達スッゴク仲良しでしょ。テヘッ。(チラリ!?もあるよ。)』ってな内容(個人的主観です。)
・・・芸能人水泳大会タイトルらしく書いてみたものの・・・わけわかりませんね。
とにかく、この映画はマシュー・バーニーの強烈な変身願望に対するオブセッション(強迫観念)を日本の捕鯨文化と融合、神話化させ、それを具現化したものです。って、これまたわけわかんねえな・・・
ようするに、マシュー・バーニーは変身や変容に妙に固執するスーパーコスプレイヤー人(スーパーサイヤ人みたいに言ってみた。)で、そんな男が変身に対する興味と、ありったけの愛を込めて造り上げた変身一大叙事詩なわけです。
まあ、コスプレ大好き親父の映画ってこと!
しかし、バーニーがそこいらの女装コスプレ親父と一線を画しているのは、アートセンスの抜群の良さとビョークが嫁はんってことです。場面場面の構図、色彩構成の一つ一つが実に練られている映像はさすが芸術家。オープニングのお祭り調、阿波踊り行進場面の色彩の豊かなこと!2時間半に及ぶ、これといって抑揚のない平坦な物語を支えているのは類い稀なアートセンスと、そしてビョークのコンポーザーとしての才能を遺憾なく発揮した、インストルメンタル音楽の数々でしょう。個人的にはそんなに好きじゃないんですが、やっぱビョークはスゴイですよ。映像と音楽でなんとも不可思議なバーニー神話を造り上げていました。
2時間半セリフほとんどなしの映画を見て寝なかったのは、わたくしこれが初めてかもしれません。まあそれでも、僕個人の意見としては明らかにマシュー・バーニーの想像力と物語性に映画が追いついていない感じは否めませんでしたが・・・。
きっとバーニーの頭の中にある映像はもっとスゴイものなんじやないかと美術館展示作品を見て思いましたね。
僕の場合、映画『拘束のドローイング9』よりも、過去の拘束のドローイングシリーズも展示されていた美術館展示のほうが数倍興味をもちました。(館内で貸し出されている音声ガイドは借りてソンはなし!展示されている作品のことが理解しやすくなり、かなりオススメ!)
なにより、シリコンや強化プラスチックを使った作品の完成度の高さが素晴らしい!
特に『拘束のドローイング8』シリーズ!
透明で少し緑がかったアクリルケースに収められた、ドローイング作品のカッコええこと!少し流線形を帯びた優美なアクリルケースのカタチの美しいこと!バーニーはんは、このアクリルケース何処に発注したんだろうか?造りがほん・・・っとに綺麗。とてつもなくいい仕事です。
これ、僕が金持ちだったら間違いなく購入してましたね。
あと初期拘束のドローイングシリーズに使用した器具を硝子(アクリル?)ケース(ふちはプラスチックカバー)に収めたオブジェ的作品もマルセル・デュシャンのレディ・メイド作品とどこか似通ったとものを感じ、かなりそそられました。これらのケースも完成度が高く、造りが実に丁寧。マシュー・バーニーはマテリアル選びが実に卓越したアーティストですねえ。そして作品それぞれに妥協点がないあたり、かなりの完璧主義者だと思われます。
ちなみに拘束のドローイングシリーズってのは、筋肉に負荷をかけて鍛練をすると、一時的に筋肉は痩せ衰えるけれど、その後、筋繊維が増え肥大する。ようするに、筋肉は負荷をかけるほどに(拘束を与えるほどに)大きくなるんだけど、これをドローイングに置き換えて、様々な拘束(負荷)を受けつつ、絵を描いたら頭も筋肉みたいになんか変化するんかねえ〜?ってのをコンセプトとし、バーニーのイタイ?(失礼。)科学&哲学的信念のもと、おお真面目に実践している映像(トランポリンにのって飛び跳ねて天井に絵を描いたり、フットボールのトレーニング用の器具を用いて自分に負荷を与えつつ絵を描いたり・・・。)が作品となっています。
で、そこに彼の元来のコスプレ(変身)願望をミックスしちゃったのが、ギリシア神話に登場する半獣半人のサテュロスに変身し、狭苦しいリムジンの中で角により何かを描こうとしている『拘束のドローイング7』。で、さらに勢い増して、鯨の変容(鯨→鯨油)と人間の変容(人間→鯨)を映像というカンバスに描き付けたのが今回の『拘束のドローイング9』なわけです。
う〜ん!突き抜けちゃってますねえ!バーニー先生!
僕はこういうへんてこ(たぶん、本人は大真面目。)なひとが大好きです。
かっこよすぎ!
最後にマシュー・バーニーのアーティスト・トークのビデオ録画映像を見て思ったんですが、かなり日本文化及び捕鯨についてリサーチしたようです。(まあ、捕鯨船の中に茶室がある時点でおかしいんですけど・・・バーニー流ファンタジーですからっ!ってことで・・・。)
日本の捕鯨問題に関しても、西洋的な見方ではなく、もう少しおおきな視点で見られてるようで、『拘束のドローイング9』も捕鯨問題に言及する作品では全くなく、(『STUDIO VOICE』8月号には、どちらかと言うと日本人よりの意見がインタビュー記事として載っていました。)ただ彼の思い描く変容に関する物語神話を造り上げていったといった感じでした。
アーティスト・トークでは伊勢神宮の式年遷宮(20年ごとに神殿を建て替え、御神体を移す儀式。)についての言及もあり、ラストにおこるフレンジングデッキの崩壊と再生の場面との関係を示唆されていました。『拘束のドローイング9』に登場する奇妙な料理も太一(和歌山県)の鯨料理からインスパイアを受けたらしく、そういった日本の地方独特のものとの関係性も興味深く。知れば知るほど、マシュー・バーニーの緻密な妄想神話世界に引きずりこまれてゾクゾクしました。
僕は個人的に物語を想起させるものや、そういった作品が凄く好きです。
アーティスト・トーク最後に女性の方が「この映画に対する内面的な思いは?どんなものでしょう?」という質問を投げかけ、マシュー・バーニーは最後に「希望がテーマであり、希望を見い出してほしい。」と言ったようなことをおっしゃってました。
変身と変容に希望を見い出す男、マシュー・バーニー。
僕は”輪廻転生、人もカタチをかえ生まれ変わる、もしくは、無機物となり土に帰り、土というカタチに変容する、その土の上に木が育ち、また世界は回る・・・”といった連想をなんとなくしました。
僕の中のベストコスプレイヤー、マシュー・バーニー!
自らの作品に希望を託すなんて、あんたは、なかなかあなどれん芸術家でありますよ!
(でも、正座は・・・ほんとヘタ・・・。)
↑『拘束のドローイング8』シリーズ。
↑『拘束のドローイング』展図録予約購入で貰っちゃった『拘束のドローイング9』のエンブレムシール。
☆マシュー・バーニーの過去記事はコチラ↓
http://akirart.blog.bai.ne.jp/?eid=8767