今回は最近読んだ本の感想です。
★『
春、バ−ニ−ズで』 吉田修一著
吉田修一さんの最新作。前作、『
ランドマーク』同様、何かが起こりそうで、なかなか起きようとしない日常を描くのがこの人はほんとにうまい。(しかし、微妙な変化が確実に起こっている事を読者は胸の何処かで、かすかにだが感じ取ることができるはず。)あいかわらず文章のリズムがよくスラスラ読めてしまうのもいい。最近、コンスタントに小説を発表しているのもスゴイと思う。希薄な人間関係でありながら、どこかで人とつながっていたいと強く願う人の多い、”いま”という時代を巧みに描ききる吉田修一の手腕はあいかわらず確かだ。
★『
スペシャリストの帽子』 ケリ−・リンク著
世界幻想文学大賞を受賞した『スペシャリストの帽子』を含む11篇を収めた短篇集。不思議な味わいの話が多数。頭で深く考えるよりも、心で感覚的に感じるべき小説だと思う。
タイトルにもなっている『スペシャリストの帽子』がやはり秀逸。読んでいると不思議でじんわりと、形容のしようのない恐さがにじみでてくる。他の話もどこかつかみどころがなくて、話の着地点が理解を超える不可思議さ。独特の世界観で、ハマる人はどっぷりハマる世界だと思う。中毒性かなり強し。解説は名訳者の柴田元幸先生が執筆している。
★『
チェ・ゲバラの遥かな旅』 戸井十月著
名作映画『
モ−タ−サイクル・ダイアリ−ズ』を見てから読んだので、実に読みやすくわかりやすかった。チェ・ゲバラという人物の生き方は凡人には決して真似できないすさまじさに満ちている。ゲバラは決断力、物事の一歩を踏み出す力が格段にずぬけた人だったんだなぁ。僕等が彼の事を決して真似できないのは、資本主義社会のぬるま湯の中で彼の顔のプリントの入った Tシャツをファッションとして、さもうれしそうに着たりするからなんだろう。僕は社会主義者ではないけれどもゲバラの生き方に敬意と、底知れぬカッコよさを感じる。ゲバラ自体、資本主義だとか社会主義だとかにとらわれず、もっと広い視野で世界を見ていたことがこの本を読めば良く解る。彼の死の瞬間をえがいたページはあまりにも悲しい。僕は、もっと若いうちからゲバラの事を良く知っていたらなあと思わずにはいられなかった。誰でも若いうちに彼の生きざまをよく知っておけば、人生の持つ意味がきっと変わるはずだ。